誰よりも大切なひとだから。
痛みが和らいで、表情の強張りが取れたところで、話しかける。
「長野くん。物理取るねんな。来年」
3年生になると、理系は選択を迫られる。
理科教科を物理をとるか、生物をとるか。
「うん。俺は物理」
「私は生物やわ。進路的に」
「薬学目指してるって言ってたっけ?」
「うん」
東先生を通して、私の情報は筒抜け。
別に秘密主義者でもないから、ええねんけど。
「長野くんは?どこ志望とかある?」
彼が必死に勉強しているのは、知ってる。
参考書を見つめているその真剣な表情が好きだから。
「俺はなぁ。近藤さんみたいなハッキリとした夢はないねんけど」
いや、私もないよ?
ハッキリした夢なんて。
薬学志望やけど、薬剤師になる気はこれっぽっちもないもん。
ただ、化学の研究や実験に興味があるだけで。
「俺は、エネルギーに関する勉強がしたいかなぁ」
「エネルギーか」
理系でも色々いる。
数学や工学、生物、化学に物理。
環境、エネルギー。
意外と数字好きには、経済も人気だったりする。
「一年後には受験やなぁ。考えられへん」
一年後。どうなってるねんやろ?
この時期はセンターが終わって、一般入試が本格的に始まる。
まだ見えない未来。
その頃、私はどうなっているんだろう?
その頃まだ、長野くんとは仲良くやっていってるのだろうか?