誰よりも大切なひとだから。



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鏡の前。
制服のリボンを結び終えて、顔を上げたら、フワッと短くなった髪が揺れた。


この週末、鎖骨あたりまで伸びていた髪を、顎のあたりで切りそろえた。


前髪はパッツン。


後ろ髪は、パーマを当てた訳じゃないのに、フワフワとウエーブがかかっている。


ストレートがちょっと憧れだけど、私の髪質は美容師さん泣かせのくせっ毛なのだ。


ま、ストレートなんかになってしまうと、私のまんまる顔と合わせて、こけしになってしまうからいっか。


「彩芽ー!もう40分やでー!」


階下から母の声がする。


私は急いでマフラーをぐるぐる首にまく。


今まではマフラーの中に髪の毛も押しこまれていたけれど、この長さはちょっと、無理だ。


マフラーの外に溢れる髪をそっと触れる。


切ったばかりだから、どこも傷んでおらず、指がスッと拔けるのが気持ちいい。


黒のコートを着ながら、ふと思ってみる。


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