誰よりも大切なひとだから。
どれくらい集中してたんだろう?
ガラッと扉が開いて、入ってきた長野くん。
その音に驚いて、顔を上げた。
「おはよう」
「おはよ。寒いなぁ!今日も」
挨拶をすると、微笑みながら返してくれる長野くんだけど、今日はふと違和感を覚える。
「お!長野。髪切ったんか!?」
その違和感を口にする前に言葉を先に言われてしまった。
長野くんに続いて教室に入ってきた東先生に。
「俺も切ったんやで!」
ほんとだ。
東先生も短くなってる。
長野くんは、ますます爽やかだ。
髪の毛をセットとか無関係な彼。
ワックスとかつけてる男子苦手だからなぁ。
長野くんのことを、もともと好意的に見てたのって、それもあるかも。
犬みたいに鼻が効くから、ワックスの匂いって吐き気が誘われるんだよね。
「よく見れば、近藤も切ってるな」
「先生!気づくんや!?」
さすがは生徒をよく見ていらっしゃる。
「そりゃ、そんだけバッサリ切ったら気づくやろ?普通」
「うちの父、鈍感だから気づかないんです」
うん。父の鈍感は生まれつきだから、そろそろ諦めてるけど。
母いわく『男はみんな細かいこと気にせぇへんからしゃーない!』だからね。
「俺も一目見て気づいたで」
ちょっと、ふてくされてる私に慰め(?)みたいなことを言ってくれる長野くん。
「それにしてもバッサリと。失恋でもしたんか?」
いえ、告白すらしていません。
……なんて、東先生に言えるはずもなく。
「せっかく切るならバッサリいきたいなーって、思って。毛先も傷んでたし」
笑ってごまかす。