誰よりも大切なひとだから。
逃げるように自分の席に戻ったのに、彼は諦めてくれなかった。
座った私の背中がトントンと叩かれる。
振り替えざるをえない。
「……なに?」
用件があるならさっさと言いなさい、みたいな口調をしてみたのに、彼は気にする様子も見せなかった。
私の目を見ると、その口元に微笑みを浮かべる。
それからゆっくりかけて、その唇が開かれる。
「お菓子、ありがとうな」
いつもの談笑と同じ声の大きさでそう言われた。
ああ、お菓子に気づいちゃったか、とか。
これで後戻りできない、とか。
そんな大きな声だと周りにバレちゃう、とか。
色んな感情がごちゃまぜになったけど、それらを全て苦労して飲み込んで、私は、うん、とだけ呟いた。