誰よりも大切なひとだから。
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『もしもし?』
いつも教室で聞く長野くんの声だ。
彼自身の性格を映したかのような、優しくて温かい声。
「もしもし。長野くん。突然ごめんな、ほんまに」
『いやいや、こちらこそ。まさか手紙なんてくれてるなんて思ってなかったから、気軽に教室でありがとうって言っちゃってさ……』
あ、手紙読んでから、反省したんだ。
「そんなんいいよ。私だってほんと、普通のお菓子みたいに渡しちゃったしね」
ハハハと笑った私だったけど、表情は引きつってる。
緊張してるのだ。
だから、上手く笑えない。
長野くんも私に合わせて笑い声を聞かせてくれるけど。
彼の笑い声もどこか乾いていて。
無理に笑っているのが、目に見えるようだ。
今まではこんなことはなかった。
渇いた作り笑いなんてしたことがなかった。
もう、あの頃には戻れない。
そう自分で自分に言って聞かせる。
笑い声を止めると彼も止めた。
沈黙が二人を繋ぐ。
私はぎゅっと目を閉じた。
電話の向こうで、彼が息を呑んだ。
何かを言い出そうとする様子が伝わる。
"落ち着け。私を好きになる人なんてまずいないのだから"
逃げ腰な私が心の中で叫びだす。
傷つかないために、用意された、言い訳。
恋を諦めるためにちょうどいい、言い訳。
『近藤さん』
「……はい」
『手紙の返事なんだけど』
来る。
私は心に鎧をまとう。
どんな言葉にも傷つかない、固い鎧を。