誰よりも大切なひとだから。
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カーテンを開けると、光の粒が注ぎ込んだ。
教室に居座っていた暗い影が慌ただしく追い出される。
月曜日、だ。
週明け。今日から始まる1週間。
「おう!近藤!テンション低いなー!」
月曜日というこの憂鬱な1日なのに、この人のこの明るさはどこから来るんだろう?
と、冷ややかな目で、教室に入ってきた東先生を見た。
「先生はお元気そうですね。私は眠い」
大きな欠伸がこぼれて、口を手で押さえた。
仕方ない。
昨日はずっーと、優希とラインしてたから。
「元気やぞ!俺は!!」
そんな大きな声で強調しなくても知ってる。
「うちの家に、新しい家族が増えたんや!!」
「へー」
鞄から勉強道具を出しながら、先生の話に相槌を打つ。
相槌の打ち方が少々ダツな気がするが、ま、東先生の場合聞いてもらえればオッケーやろ。
「名前はハッピーちゃん。可愛いやろぉ」
「犬?」
「生後3ヶ月のラブラドールレトリバー」
ラブラドールレトリバーと言われて、どんな犬か、思い出せないけど。
(私は犬の見分けがつかない)
とりあえず、先生の笑顔からよほど可愛いらしいのは見て取れる。
「でも、ハッピーちゃんの頭を撫でる、里ちゃんのほうが可愛かった♡」
デレデレの笑顔で、愛妻の名前を呼んだ東先生に苦笑。
付き合い始めて、かれこれ40年。
なのに、付き合いたてのカップルのような言葉が言えるのは、すごい。
「また、先生がのろけてるー」
結婚してからも、随分長い時間を過ごした東先生と里ちゃん。
それでも、いつまで経っても恋人同士のような二人がちょっと羨ましい。
私はいつか、出会えるんだろうか?
誰かを愛し、誰かに愛されて。
二人で笑顔を咲かせて。
おんなじ時を分け合える、そんな"誰か"に出会えるんだろうか?