誰よりも大切なひとだから。
試験にクラブに受験に。
勉強は嫌いな方ではないけど、さすがにこれには、悲鳴を上げそう。
受験生の私って、どんな感じやろ?
めっちゃ余裕なくしてるんかなー
シャーペンを見つめていた私は、教室の扉が開く音がして、顔を上げた。
「おはよ。今日も早いなー」
2週間ぶりに見た彼は、そう言って私に白い歯を見せて笑った。
ドキンッ、って高鳴る胸を押えて、声を押し出す。
「……おはよ。長野くん」
久しぶりに会えたのが嬉しくて、笑みがこぼれた。
長野くんは、私の斜め後ろの席に荷物を置いた。
「長野くん。冬休み勉強した?」
何か話しかけたい、と思って、出てきた話題がやっぱり勉強。
「塾にはずっーとこもってた」
「わ、エライ!」
「実際、無駄に時間過ぎただけやけどな」
つけてきていた手袋とネックウォーマーを鞄にしまった長野くんは、座席に座って、何かの参考書を取り出した。
「俺も、近藤さんを見倣って、朝から勉強する」
「数学?」
「うん。数学。塾で課題が出て、3ヶ月でこの問題を全問解かなあかんねん」
それは、おおよそ500ページは超す数学で最も有名な参考書だった。
もちろん500ページは問題であって、解答ならまた別に500ページほどの別冊子がある。
私は持っていないけど、他の友人たちが持っていて、見せてもらったけど、なかなかの難易度だった。
「すっごい、ページ数よね……」
「うん。泣けてくるよ。ほんまに」
長野くんは、シャーペンを取り出して、真剣な瞳を参考書に向けた。
そのまっすぐな瞳に、また鼓動が耳に響く。