誰よりも大切なひとだから。
庭に大きなテーブルが置いている。
その周りには、ガスコンロと調理器具と幾つかの椅子。
「適当に座ってくれ」
椅子に座ると、丸テーブルの右半分を女子が、左半分を男子が占領した。
わたしの左に女子ふたり。
そのさらに隣に、長野くんが座った。
「ちょっと待っててな。料理出すわ」
「え、東先生が作ったん!?」
「そうや。料理は趣味やから」
へぇ。東先生が大の釣り好きだと知っていたが、まさか料理好きだとは思わなかった。
「先生の料理楽しみー♪」
しばらくすると、東先生が皿を抱えて、部屋から出てきた。
テーブルに並べられるその料理は、どれも本格的過ぎて、うなる。
サーモンとローストビーフ。
サラダに手作りドレッシング。
オリーブが乗ったピザ。
ペペロンチーノにトマトパスタ。
インスタントの料理しか食べたことがない私は思わず、息を呑んだ。
続いて、先生は飲み物を出してくれる。
グレープソーダに麦茶にコーラ。
「これは、俺と里ちゃんのぶん」
更にテーブルには、ノンアルコールビールに、普通のビールに、琥珀のウイスキー。
忘れていたが、先生は酒好きだ。
修学旅行でも口が寂しいと、夕食でノンアルコールビールを飲んでいた。
「さ。みんな、食えって」
割り箸を渡されて、私たちは我一番にと料理に手を伸ばした。
「あ、このサーモン食べれる」
実はサーモン嫌いな私が、そう呟くと、ともみんがこっちを向いた。
「彩(あや)ちゃん。サーモン嫌いやった?」
ちなみに、彩ちゃんとは私のこと。
近藤彩芽(こんどうあやめ)で、彩ちゃん。
「うん。苦手」
「えー!人生半分損してる!!」
「でも、これは初めて食べれた」
ともみんに笑いかけると、私たちの会話をちょうど向かいの席で聞いていた、東先生がドヤ顔をしてきた。