誰よりも大切なひとだから。



彼の姿を見るだけで嬉しくなる。
私ってほんま、単純。


「おはようございます」


「あれ?お前、何でそんなビショビショやねん」


私の斜め後ろに座った彼は、驚くほどにびしょ濡れ。


制服の学ランから、髪から、鞄から、雫が滴っている。


「傘は!?」


私の叫びに長野くんは苦笑をした。


「それがさ、駅前の駐輪場に置き忘れて。気がついたのが、もう電車に乗ったあとでさ」


つまり、駅から学校まで、この土砂降りの中、歩いてきたわけだ。


もちろん傘なしで。


開いた口が塞がらない。


長野くん。
相変わらず、おっちょこちょいというか、天然というか。


やっちゃった、と笑う顔が、ちょっと、可愛いんですけど。


< 76 / 156 >

この作品をシェア

pagetop