誰よりも大切なひとだから。
*.**.**.*
古典の先生が漢文の文章の状況を一人芝居で教え始めたとき。
ゴホッゴホッ
激しく咳き込む声がした。
驚いて軽く振り返ると、ワイシャツ姿の長野くんが教科書を左手に持ちながら、右手は口元を抑えていた。
その姿は見慣れない白のワイシャツ姿。
少し新鮮な雰囲気で、また一瞬、心拍数が上がった。
学ランがもう滴るほど、ボトボトで、少しでも体を冷やさないために、今は学ランを脱いで、ワイシャツ姿になっている。
私の学校では行事のとき以外は私服でも構わないのだが、長野くんはいつも真面目に制服である学ランを着ている。
その服を外でも室内でも脱ぐことがないから、ワイシャツ姿が私の目には、とても新鮮に写るのだ。
だけど、今心配なのは、彼の体の具合。
いつものクールな顔が、咳き込むたびに辛そうに歪まれる。