誰よりも大切なひとだから。



剣道を幼い頃からやっていたと彼は言っていた。


しかし、生で見るのは違う。


間合いをとって、相手の隙を伺う間にも途切れることのない集中力。


自身に力を入れるため、ずっと、吠えている様子は、まるで、獲物を狙う獣だ。


その目の力だけでも、殺されてしまいそう。


笑ったときに細められるあの温かな瞳と同じとは思えない。


「……かっこいい」


つぶやきの刹那。
長野くんが動いた。


「小手!!」


竹刀が小手を叩いた心地よい音が響く。


審判役の3人が同時に旗を上げた。


長野くん。
そんなかっこいい姿見せられたら、惚れ直しちゃいますよ?


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