誰よりも大切なひとだから。



講習では遠慮がちに後ろの席に座っている長野くんの隣に行き、目線を合わせるため、しゃがみこんだ。


講習用プリントを覗き込んむと、ぎっしりと、私やわんちゃんが前のホワイトボードに書き込んだことを書きつめている。


しかも、私が口頭で解説したことまでメモされていて、聞いてくれていたんだと、嬉しくなった。


「長野くん、わかる?」


質問してから、思う。


この言い方、めっちゃ、上から目線!?


好きな人相手に、めっちゃ、嫌な言い方しなかった!?


しかし、長野くんの表情に変化はなかった。



「うん、わからへん……教えて。近藤さん」


何か長野くんに久しぶりに名前を呼ばれた気がした。


うわ、それだけでも嬉しい。


別に喋らなかった訳じゃないけど、いつも目があったら自然と口が動いているという感じで喋ってたから、名前呼び合うこととか、めったにないんだよね。


勉強会。もちろん、勉強に集中しなきゃいけない時間。


だけどね。嬉しいんだよ。
好きな人と喋れるだけで。


力を貰えるんだよ。


「どっからわからん?」


「この答えがさ、whatでもwhoでもないっていうのはわかんねん」


今やっているのは、英語の関係代名詞だ。


関係代名詞が、何たるかは、参考書で見てほしい。


英語は嫌いなのだ。
私の成績の中で、群を抜いて、悪い。


私は嫌いな勉強はすぐ投げ出すタイプ。


東先生はそれを知っているから講師役にしたのも、ひとつの理由。
これで、私も必然的に英語をせざるを得ない。


いやー、先生って、策士。


英語が苦手でも、下手な講義をしないために、参考書を必死に読んで正解だったよ。


「……やん?」


「え?」


小声で聞き取りづらかったらしい。
長野くんが、顔を私の口の前に近づけてきた。


む、む、無防備すぎる!!


近すぎます!!長野くん!!


あ、あ、あと3センチほどで、唇ひっついちゃいます!!??


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