誰よりも大切なひとだから。



……あ、やばい。


さっきの至近距離を思い出してしまった。


顔が火を噴いたように熱くなって、彼に背を向け歩き出す。


いきなり猛ダッシュしたかったが、まるで避けてるみたいで、それも怪しいし、後ろの気配を気にしつつ、歩いた。


「……」


「……」


おそらく、顔が真っ赤な私は何にも話せない。


それを知ってか知らずか、長野くんも何も言わない。


……こんなに純情だったの?私
うぶすぎない?


ま、仕方ないと、しておこう。
私の年齢=彼氏イナイ歴なのだから。


うんうん。仕方ない。
そう無理やり納得して。


後ろをチラリと見つめれば、彼は私のことなど全く気にもしない様子で、自身のスマホにイヤホンをさしている。


喋る機会を逸してしまったようだ。


『今日の講義難しかったね』とか


『帰ってからも勉強するの?』とか


何でもいいから、喋りたいんだけど。


何故か、いつものテンションが出ない。


いつもは普通に、ポンポン会話が弾むのに。


……勇気、でない。


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