キミ色の夏
自転車にまたがった男の人が、外灯の下で立ち止まっている。
それも、ただ立ち止まってるんじゃなくて。
何故か自転車を、進行方向から90度横に向けて、私の方を見てる……。
や、やっぱり独り言が聞こえてた?
それで変な風に思って私を見てるのかな?
で、でも……そんなの無視して行ってくれればいいのに……。
「……」
ここは田んぼの横の道で、他に通れそうな道路は無い。
前に進むか、後ろに引き返すだけ……。
でも、ここで引き返すのは明らかに不自然。
あと数十メートル行けば大きな道路に繋がる信号があって、道も増える。
後ろに進む道の長さは、信号までの距離の5倍以上はある。
……うん。
ここは自転車の人を無視して、このまま前へ進もう。
「……よし……」
小さく小さく言葉を放ち、意識を足へと集中する。
ドキ、ドキ、ドキ。
自転車の人にも聞こえてるんじゃないかってくらい、心臓が大きく鳴っている。
あと少しで、自転車の人の居る外灯。
足が震える中、なんとか1歩、また1歩と近づいていく。