キミ色の夏
「……屋上前の踊り場で柳井と会って、色々な話を聞いた時……本当は全部言いたかった。
中学時代の杉田はこういう奴だったんだぞ、って、言ってしまいたかったんだ」
「でも、言わなかった……?」
「言えなかったんだ。 だって柳井は俺のことを知らなかっただろ?
同じパソコン部で、俺は部長をやってるけど……でも初対面も同然だ。
そんな俺が言ったって信じてくれるはずがないって思ったよ。 ……だから俺は、柳井が杉田のことを忘れられるようにしようって思ったんだ」
「……」
──『俺が、お前の隣に居てあげる』
……あの上から目線のセリフは、柚希くんの精一杯の優しさだったんだ。
私が全部を忘れられるように。
剛くんのことを、完全に忘れられるように……。
「……花火大会、一緒に居てくれてありがとう。
柳井は俺のことを何も知らない状態だったし、俺も何も言ってない状態だったけど、そばに居てくれてありがとう」
ポンポン と、いつもみたいに頭を叩かれる。
そして柚希くんの手は、当たり前のように私の頭を撫でてきた。
……柚希くんのその動作が、ただただ嬉しい。
柚希くんが私に触れてくれることが、
私のを見つめてくれることが、
そばに居てくれることが、ただただ嬉しくて幸せだった。