キミ色の夏
「あ、もしかしてあの時の男子が彼氏?」
「は、はい……あの時はまだ、付き合ってませんでしたけど……」
「名前は確か、スギ……スギ ゴウタロウだっけ」
「杉田 剛……です」
……本当に他学年の生徒の名前はうろ覚えらしい。
むしろ私の名前を正確に覚えてたことが奇跡だったのかも?
「で、なんで別れたの?」
「……『トッコにはもっと相応しい人が居るよ』って、突然言われて……」
「トッコ?」
「あ、私の名前が徳子だから、トッコって呼ばれるようになったんです。
剛くんはその方が可愛いし好きだから、って……言ってて……」
私のことを初めてあだ名で呼んだ時の剛くんの笑顔を思い出して、また涙が出てくる。
……ていうか私、なんでこんなこと話してるんだろ。
この人に剛くんとのことを、言う必要なんてないのに……。
「徳子だからトッコ、か。 付き合う前からそう呼ばれてたの?」
「……あの、これって教える必要あります?」
「いや、全然無いね」
「……」
……なんか、調子狂うな……。
でもまぁ、教える必要が無いのなら教えなくてもいいよね。
この人は確かに先輩だし、同じ部活の部長さんではあるけれど、
『全然無い』って本人が言ってるし、私もそう思う。
だから、これ以上は何も言わないことにしよう。