キミ色の夏


「瑞希く…んっ……」

「あぁ大丈夫大丈夫、そこに居て」



余裕のある瑞希くんの声。

それに舌打ちした剛くんは、直後に瑞希くんへと向かっていた。



利き腕である右手から放たれる、スピードのある強烈なパンチ。

瑞希くんはそれを避けるために後ろへ下がったけれど、

今度は左からのパンチが繰り出された。



ダメっ……瑞希くんがやられてしまうっ……。



「お願いっ…やめてっ……!!」



そう叫んだけれど、剛くんは止まらない。


拳は真っ直ぐに瑞希くんへと飛んでいく。



「瑞希くんっ……!!」






必死に、

彼の名前を呼んだ時だった。







  ガンッ



      バシャッ



「……っ……!?」






剛くんの拳が瑞希くんにあたると思ったその時に、

瑞希くんは持っていたペットボトルを剛くんに投げつけていた。


蓋が開いていたのか、緩んでいたのかはわからない。


だけどペットボトルが剛くんにぶつかった瞬間、中身が一気に外へと放出された。



宙でくるくると回って落ちるペットボトル。

放たれた液体が剛くんの全身を濡らし、座り込んでいた私にも降り注ぐ。



剛くんが一瞬怯んだ隙をつき、

瑞希くんが剛くんへ……ではなく。






「俺の柳井に何やってんだ この野郎ッ!!」



後ろへと下がっていた瑞希くんと “入れ違いで入ってきた人” が、

強烈なパンチを剛くんの腹部へと打ち込んだ。




俺の柳井に。


それが遅れてやってきた彼の……柚希くんの最初の一言だった。


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