痛々しくて痛い
それでも醸し出す雰囲気に共通した威厳があったのだ。


こちら側が「日常生活に密接に関わる知識、技術を伝授してくれる人」という先入観を持っていたからかもしれないけれど、きっと先生方もそのイメージを崩さないよう、期待に答えられるよう、努力していた部分もあったのではないかと思う。


たとえ本人は自覚していなくても、無意識下で。


そういった覚悟や度胸や信念がなければ、とてもじゃないけど教壇に立ち、生徒達を導いたりはできないと思う。


だからやっぱりそういう面から考えても、つくづく自分が進むべき道ではなかったと思う。


「どの職業を選択しようと別に本人の自由だもんね。それよりも私が気になったのは、なまじ手先が器用だと、色々と煩わしい思いをする機会が多かったんじゃないのかな?っていう事なんだけど」

「え?」

「『これ教えて。試しにやってみせて。どうせだったらあなたが全部作って。知り合いなんだからもちろんタダで』っていう風に、身勝手な要求を押し付けられる事もあったんじゃないかなと」

「グフッ」


するとその時、残りのコーヒーを一気に飲み干そうとしていた麻宮君は激しくむせた。


「え?どうしたの?慧人」

「大丈夫?」

「ゴホゴホッ」


しばらく咳き込んだあと、麻宮君は声をかけた伊織さんと颯さんにはもちろん、全員に視線を配りながら掠れた声で返答した。
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