痛々しくて痛い
「ちょっと、変なとこ入っちゃって…。すみません、お騒がせしました」

「慧人って意外と慌てんぼさんだねー」

「ホントだよ。気をつけてね。…って、どこまで話したっけ?」

「えっと、タダで物作りを依頼された事があったんじゃないかっていうところまで…」

「あ、そうそう。実際どうだったの?」

「確かに、親戚や母の知り合いやご近所の方なんかに、マフラーや帽子や、それこそ入園入学グッズの作成なんかを頼まれたりした事はありましたけど…」

「あらら、やっぱり?」

「引き受けちまってたのかよ…」


気管に侵入した水分はすべて追い出せたようで、無事復活を果たした麻宮君も再び会話に参加して来た。


だけど……。


「ちゃんと断らなくちゃダメじゃんか」


眉間に皺を寄せ、何故かすこぶる不機嫌そうに言葉を繋いでいる。


「あ、で、でも、もちろん材料費はきちんといただいてたよ?その他にもお礼として、高級なお菓子とか商品券とか添えてもらっちゃったりして…」


戸惑いながらも私は慌てて弁解した。


「それに、やっぱり相手も色々と気を使ってしまうみたいで、頼むのは一回こっきりというか、その後何度もあれこれ注文されるという事はなかったし」

「ああ、その人達はきちんと礼儀を弁えてたって事だね」


伊織さんはウンウンと頷きながら言葉を発した。
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