痛々しくて痛い
麻宮君はそう呟きながらキッチンペーパーで私の口周りを拭き取り、それをゴミ箱に投下すると、流し台に向き合った。


そしておそらく私の唾液まみれになってしまったであろうその手をハンドソープで念入りに洗い始める。


「ご、ごめんね…」


どうぞ、思う存分消毒して下さい…。


そこで『あ、そうだ』と思い、私はキッチンペーパーを一枚切り取り待機すると、手を洗い終えた麻宮君にすかさず差し出した。


彼がそれを受け取った所で、改めてその目を見つめ、今、自分が言わなくてはいけない言葉を口にする。


「麻宮君、ありがとう…」


私を痛みと苦しみから解放してくれて。


するとそこで、吐き気で否応なく込み上げ、目尻に残っていた涙が、時間差で頬を伝うのがわかった。


ついでに鼻水も出てきた。


濡れた手をふきふきしていた麻宮君の動きが止まる。


あ、マズイ。
今の鼻水見られたかな。

あちこちデロデロで、あまりの汚さに、引くよね。


私は慌てて顔を背け、さらにもう一枚キッチンペーパーをもらおうと体の向きを変えたのだけれど。


その瞬間、麻宮君に左腕を掴まれ、強い力で引き寄せられた。


え?と思っている間に、その胸の中に捕らえられる。


後頭部をギュッと掴まれ、麻宮君のワイシャツに顔面を押し付けられて、ちょっと苦しい。
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