痛々しくて痛い
伊織さんが颯さんをチラリと見つつそう言った所で、気になっていたことを尋ねてみる。


「あ、あの、総務の方にこの件を伝えてしまったでしょうか?」

「いや、まだだよ。まずは病院を探そうと思って。いくつかピックアップしておいたんだけど…」


言いながら、染谷さんはキビキビとした足取りで私の傍らへと近付いて来た。


「ここから半径2キロ以内にある耳鼻咽喉科の住所と電話番号。もう必要ないかもしれないけど、せっかく調べた事だし受け取ってくれ」

「あ、ありがとうございます」


受け取ったメモには3軒ほど病院の名前が記されていた。


きっと皆さんで、一斉に検索して下さったんだろうな。

ありがたいな。


胸がじーんとして、自分の席に戻る染谷さんの背中をじっと見守ってしまった。


あまりの感動に、きっと私の瞳はキラキラウルウルとしていることだろう。


するとその時。


視界の端に、何やら恐ろしいものが映り込んだ。


嫌だったんだけど…。


できることなら一生気付かないふりをしていたかったんだけど…。


避けて通ることはできないと、本能が告げていた。


覚悟を決めてそちらに視線を向けると、案の定、麻宮君が鬼の形相で私のことを睨んでいた。


こ、こわい…。


新人研修の時のいざこざは誤解だって言われたけれど。


今度こそ、間違いなく、正真正銘、彼は私に対して本気で怒っている…。
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