痛々しくて痛い
「ええ!?」


その途端、皆一斉にざわめいた。


「あーもう。颯がプレッシャーかけるからだぞ」


ちょっと慌てたようにそう言いながら立ち上がる樹さん。


「大丈夫?どこら辺に刺さってるか分かる?」


心配そうな表情で綿貫の顔を覗き込む伊織さん。


「ご、ごめんね愛実ちゃん!あ、お茶、もっと飲んでみて!」


大慌ての颯さん。


だけど俺は、とっさに声を出す事も動く事もできなかった。


普段めったに感情を表に出さない綿貫が、心底痛そうな表情をしている。


そんな彼女を見ていたら、とてつもない恐怖に襲われて、体が硬直してしまったのだ。


「お医者さんに診てもらわないとダメかもしれません」


綿貫は冷静な口調で呟く。


「あ。でも、仕事が終わってからでも大丈夫ですので…」

「な、何言ってんの!すぐに取ってもらわないとダメだよ!」


間髪入れずに颯さんが叫んだ。


「長時間放置してたらますます深く入り込んじゃうかもしれないし」

「え?ですけど…」

「そうだよ。しかも傷口からバイ菌が入って炎症起こしたりするかもしれないし。そしたら高熱も出るし大変だよ」

「えっと、医者って何医者?歯医者?」

「いや、耳鼻咽喉科でしょう」

「ここから一番近いとこはどこかな?ネットで調べてみるか?」


そして颯さんと伊織さんと樹さんの会話が飛び交う。


そこで、ふいに体の呪縛が解けた。
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