痛々しくて痛い
このチャンスを逃してはいけない。


俺はそう考え、弾みをつけて立ち上がり、綿貫のもとへと光の速さで移動すると、再び箸を取ろうとしていたその手の動きを止めた。


「やめろ!無理に飲みこんだら、余計刺さるぞ!!」


どんぐり眼とはこういうものをいうのです、という注釈が入りそうなほど目を見開いて、綿貫が俺を見上げてくる。


掴んだ腕を、さらに強引に引き寄せた。


「え?慧人、どこに行くの!?」

「給湯室です。病院の検索お願いします。あと総務に、取材中もしかしたら二人抜けるかもしれないってのも伝えておいて下さい」


颯さんだけでなく皆さんに向けてそう答えながら、俺は綿貫の手を引きつつ出入口へと向かうと、ドアを乱暴に開けた。


廊下へと出て、そのまま給湯室めがけて突き進んで行く。


綿貫の喉が傷ついたらどうしよう。


声が出せなくなったらどうしよう。


もう二度と、あの力の抜けるような「んふふ」という笑い声が聞けなくなったらどうしよう。


そんな事を考えながら足早に歩を進め、無人の給湯室までたどり着いた俺は、流し台の前で立ち止まった。


そして……。


気がついた時には綿貫の口の中に、強引に、右手の指を突っ込んでいたのだった。


今から思うとホント、冷汗が出るくらい考えなしな行動だ。


そんなことをしたら、余計患部を傷つけてしまう事になるかもしれないじゃないか。
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