痛々しくて痛い
ま、そりゃそうだ。


しかし混乱し過ぎて言葉が出てこない。


するとほどなくして綿貫が姿を現した。


「あ、愛実ちゃん!」

「大丈夫だったの?」

「は、はい。無事取れました。お騒がせしてしまってすみません」

「あ~、良かった~」

「やれやれだな」

「つーか、騒いでたのは主にこの男だけどね」


伊織さんが颯さんをチラリと見つつそう言った所で、綿貫が尋ねた。


「あ、あの、総務の方にこの件を伝えてしまったでしょうか?」

「いや、まだだよ。まずは病院を探そうと思って。いくつかピックアップしておいたんだけど…」


言いながら、樹さんはキビキビとした足取りで綿貫に近付き、手にしていたメモを彼女に渡した。


「もう必要ないかもしれないけど、せっかく調べた事だし受け取ってくれ」

「あ、ありがとうございます」


それまで中途半端な位置にさ迷わせていた視線を上げて綿貫の顔をチラリと盗み見ると、樹さんの後ろ姿をキラキラとした眼差しで見守っていた。


それを視界に納めた瞬間、先ほどとは違う感情が俺の中で湧き起こって来る。


うまく説明できないけど、あまり上質ではない感情が…。


遠くの方で、『戻って来い』と声がした。


もう一人の自分が、必死に俺を呼び止めていた。


だけど俺はそれを強引に振り切って、越えてはならない一線を、越えてしまったのだった。
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