痛々しくて痛い
「そんじゃね」


俺がポカンとしている間に彼女はそう言い残し、さっさと女子ロッカールームに入って行ってしまった。


「どうしたの?慧人」


いつの間にか俺が消えていた事に気付き、不審に思ったのであろう颯さんが、ドアから顔を出す。


「あ、い、いや、何でもないです!」


俺は慌てて室内に入り、自分のロッカーへと向かった。


やっぱり彼女には何もかもお見通しだったか…。


冷や汗をかきつつ帰り支度を済ませ、樹さん颯さんと共にエレベーターホールまで歩を進めた所で、あまり間を置かずに伊織さんもやって来た。


「あれ?早いですね」

「ん?同時に部屋を出たんだから、そりゃエレベーターを使うタイミングも一緒になるでしょうよ」


一瞬ドキリとしたが、すぐに颯さんと会話を始めたので内心胸を撫で下ろしつつ二人のやり取りを見守る。


「いやだって、普通女性の身支度ってもっと時間がかかるものなんじゃないですか?メイク直ししたり」

「ただコートを羽織るだけなのに身支度も何もないでしょ。それに、後は帰るだけなんだから、メイク直しなんかしないよ。この時期外は暗くてどうせ他人の顔なんか良く見えないし」


つくづくあらゆる場面で豪快な人だな、と思う。


しかし、伊織さんの顔面に修正を加えなくてはいけないような箇所は全く見当たらなかった。


いや、そんなジロジロと観察していた訳じゃないんだけども。
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