痛々しくて痛い
ますますポカンとした颯さんだったけれど、すぐにハッとした表情になり、私に視線を合わせた。


「ねぇ、それってさぁ」


すると伊織さんがすっと私に接近し、言葉を発する。


「愛実、先に中に入っててくれる?私と颯は樹さんの所に行ってくるから」

「え?別に2人で行かなくても…」


颯さんの言葉を遮るように、伊織さんが彼の右腕を掴んで強引に歩き出した。


彼女の意図はすぐに分かった。


きっと、一時的に私達を二人きりにしてくれるつもりなのだろう。


すると伊織さんは一瞬振り返り、ニコッと優しく微笑んだあと、不思議顔の颯さんを伴って廊下を進んで行った。


医師も「それでは」と言いつつ足早に歩き出す。


誰もいなくなったその空間で深呼吸をすると、私は意を決し、部屋の戸を開け、中へと入った。


普通の診察室みたいな部屋だった。


何せ私もつい小一時間前まで別の病院にいたのだから、そのレイアウトはバッチリ記憶に残っている。


救急センターって、何だか機械がいっぱいあって電子音がピコピコ鳴り響いてて、スタッフが入り乱れてて、てんやわんやで、ってイメージだったけど、ここはとても静かだった。


そういやすごい奥まった部屋だしね。


メインの処置室はきっと別の場所にあるのだろう。


軽傷だからこっちに回されたんだろうな。
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