五月雨・序

「圭吾。」
「ん?」
「今日は、楽しかった。」

カーディガンで顔を隠した。
袖口に、圭吾の香りがした。

「何だよ、楽しいとかじゃなくて、治せ。」
「うん。……アタシも頑張る。」
「はぁ??」

ニコッと笑った。
冷たい風が吹いて、ポッと頬が熱くなった。
多分、赤いんだね、アタシ。

「おう!」
「はは。」

幸せって、こういう形でも良い。
誰かを少し傷付ける事で、前進する。
それでアタシ達は成長するんだ。

「…………好きだ。」
「分かってます~。」
「うわ、酷すぎだろ~。」

ハハッと笑い合うと、圭吾はアタシの頬にキスをして抱き締めた。優しく、優しく。
温かく伝わる体温。
香ってくる香水の香り。
安心して眼を瞑る。

「…………じゃあな。」
「うん。」

圭吾。
アタシ、貴方色に染まれるかな?

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