五月雨・序

宗助の隣に座るのが憂鬱で仕方がない。
誰か、変わってくれないかな……。

「おっはよぉ~。」

美玖がアタシを後ろから押す。
いつもの通りハイテンション。
でも、こういう時、何て言って良いのか分からない。
やめてなんて言ったら、感じ悪い気がして……。

「お、おはよ。」
「はは、今日ウチ部活休みなんだ~♪紗江と遊び行くの!」
「……そっか。」

態度、悪いよね?
ゴメン美玖。
アタシ、今は笑えないや。

「ねえ、良かったら一緒に来ない?クレープ屋さんまでなら遊べるっしょ?」
「あ、うん。行く。」

食べるだけで、忘れる事はできないだろう。
でも、ほんの少しの時間でも、アイツを忘れたかった。
会ったら、何て顔するんだろう。
自信なんかないよ……。

教室。一人で突っ伏してる。
何か、だるくて仕方ない。
息苦しいわけじゃないのに、力も、やる気も起きない。

「よっす。」
「…………。」

返事しなかったんじゃなくって、気付かなかった。

「おい!!」

“ポコン!”

教科書で頭を叩かれる。

「痛。」
「お前さ、挨拶ぐらい返そうよ?」

目に入ってきたのは、スッキリした顔の宗助だった。
ニコニコしてて、フラれたとは思えない。
ただ、何か胸の辺りが重いような、そんな感覚。

「……どうした?風邪?」
「聞いたよ、友香に。」

夢であったらどんなにいいだろう。
アイツが傷つくかもしれないことは分かってた。
でも、傷付けてやりたかったのも、本心だったかもしれない。

「……聞いた?マジ?」
「高橋も。一緒に。」
「嘘。皆に言ってねーのに……。」
「アンタ、乗り気でああいうことやる奴だったんだ。」
「乗り気って、俺は本気だもん。つか、もう吹っ切れた。」

笑顔のアイツが憎い。
アタシは吹っ切れてなんかいない。
ただ、傷付いて。
アンタを思い出すたび辛くて。
苦しかったのにっ……。

「……か。」
「ん?」
「馬鹿!!」

アタシは、泣いてた。
アタシは、怒ってた。
アイツは、分からなかっただろう。
アタシがどんなに傷付いたか。
アタシも、気付かなかった。
アンタが、辛かったって事。



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