五月雨・序
「谷口、大丈夫かよ?」
「うん、もう、話したらスッキリしたから。」

涙が溢れて、高橋に泣き付いた。
弱くてごめん。今だけは見ていてほしかった。

「そうには見えない。」
「本当に、有り難う。もう、平気……。」
「……るなよ。」
「え?」

高橋が何か言いかけたから、アタシは顔を見てもう一度確認したんだ。
でも、アンタはもう言ってくれなかった。
言葉を知るのは、もうちょっと、先の話。
もっと悲しい、アタシの恋があってからだ。

「今度文化祭じゃん?開会式、何かやる?」
「開会式?」
「ほら、去年先輩たちがバンドとかやってたじゃん。」

高橋の提案はアタシを気遣ってか綿密に計画してあって驚いた。
アンタは、予想以上にアタシを支えてくれた。
可愛くなんかないし、凄く優しいわけでもない。
どちらかといえば、可愛げのないワガママな女子。
そのはずなのに、アンタはいつも優しかったね。
今でも、目に焼きつくアンタの笑顔は、凄く大切なアタシの宝物だった。

「……ということで、俺たちはフォトミュージアムをやろう!!」
「フォトミュージアム?何それ?」

柳も、紗江も、美玖も、宗助も、友香も。
皆キョトンとした眼でアタシ達を見た。
一眼レフカメラを写真部の子から借りて、フイルムを買って写真を撮った。
高橋と二人で撮りためた思い出たち。
それは路地裏だったり、皆の休み時間の風景だったり、八百屋のおじさんだったり。優しさに溢れるようなもの。

「そこで、これで作ってほしいんだよ、柳。」
「は、俺?」
「パソコン得意だろ?」
「そうだけど、何すればいいんだよ?」
「それはな……。」

高橋は監督として、アタシはライターとして、柳は編集、他の人たちは朗読や裏方。
そんなこんなで、文化祭はやってきた。
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