五月雨・序

「えっと……受信メールさ、消しといてくれない?」
「え?」

耳を疑った。
そりゃあ、隠したいのは事実だけど……
思い出も消しちゃうの?
そんなの……悲しい。

「……分かった。」

私はメールは消さずにロックだけかけた。
消してしまいたくなかった。
君との思い出を
君の言葉を。

「……なあ、今度は音楽祭だな。」
「あ、うん。」
「有志やる奴いんのかな?」
「やる人、少ないって言ってたよ?」
「……ふ、ふ~ん。」

どこかいつもよりぎこちない空気が流れていた。
告白したときよりも
失恋したときよりも
王冠のストラップを入れた後より
どこかお互い、
触れてほしくない気持ちがあった。

どうして?
せっかく付き合えたのにこうなんだろう。
そもそも、付き合って何したかったの?
中学生で付き合って何?
よく考えたら、疑問だらけで。
アタシはそのまま、
何の変化もなく何週間か過ごした。


ねえ、付き合うって何なのかな?


まだ、アタシには分からないよ。

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