五月雨・序
「……御さんは?」
「仕事中のようで繋がりませんでした。」
「そうなの…………。」
優しい花の香り。
柔らかい身体を包む感覚。
何も覚えていない、あの時から。
「…………。」
黄ばんだ天井、囲むシーツ。
「保健室か……。」
準備してあるアタシの帰りの準備からして、多分紗江か誰かが準備してくれたんだ。
さすがに、男子部員だけじゃ女子更衣室に入れないだろうから……。
“シャーッ。”
カーテンが開いて外の光が入ってくる。
無意識のうちに寝たふりをしてしまった。
「…………。」
薄目じゃ誰が入ってきたか分からない。
多分、部活の先輩だろう。
「じゃあ、宜しくね。」
保険医の声が聞こえる。
何か頼まれたんだ、先輩。
「…………大丈夫かよ、ったく。」
耳を疑ったんだ、声を聞いて。
それはいつもと同じあの声だった。
ここにいるはずなんかないのに。
驚いて声を出してしまいそうだった。
「心配させんな、馬鹿。」
高橋…………?