五月雨・序

「俺送るよ。せっかく待ったわけだし。」

高橋が自転車置き場を見回す。

「俺の自転車何処かな~?」
「喚起口の前……。」
「お、ありがと。」

“ガシャン!”

黒い高橋の自転車。
今日は何処か違って見えた。
それは疲れてたとか、そうじゃなくて。
新しい、何かがあったからだったのかな?

「……谷口?」
「あ、何?」
「荷台、座って。」

さり気なく掛けてある高橋の上着は、ほんのりと優しさを感じさせた。
アタシはそれに腰掛けて、高橋の裾を掴んだ。

「行くよ?」
「……うん。」

“チリリン。”

見た目はもうどうだっていい。
2ケツだって、褒められたものじゃないけど。
アタシにとって、大切な思い出。


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