五月雨・序

「なあ、アイツの事、まだ好きなの?」
「……うん。」
「泣いてでも普通好きになるかぁ?変わってるよな、谷口って。」
「……別に、好きで泣いてるんじゃ、ないし……。アタシだって辛いもん……!」

今思い出しても泣きそうになる宗助の言葉。

『距離置こう。』

馬鹿じゃないのって言われるのは分かってた。
こんな辛い思いしてどうするのって。
付き合う意味さえ分からないのに。
まだ、14歳なんてガキなのに。

「…………。」
「高橋は、そんな事ないの?」
「あ~、あるっちゃあるけど。」
「え?」
「絶対叶わない恋?笑っちゃうよな、人に何だかんだ言って、自分も悩んじゃってんの。一ちょ前にさ。ははは。」
「友香のこと、どうしたの?」
「好きな奴居るって、ふった。悪いな、友達なのに。」
「別に、それは個人の考えだから……。」

裾が少し濡れていた。
アタシの涙だと思った。
また、溢れそうになる涙に、戸惑った。

「……高橋。」
「何だよ。」
「好きになるって、辛いね……。」
「は……?」
「辛い事ばっかり。」
「あぁ。そうだな。」

暗くなった道に、二つの影。
それが何を意味するかは知らないけど、でもまだアタシは知らなくて良いんだよね?
本当の、恋の辛さなんて。

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