あなたと月を見られたら。


貸してる本。

それは玲子先生に又貸ししている美味しいコーヒーのドリップの仕方を詳しく書いている本。悔しいことにフランス語オンリーの洋書を翻訳した貴重な資料で、その翻訳本のおかげで玲子先生の執筆は首尾よく進んでいる、ってお話なんだけど……


「あれは俺の下心込みで貸したモノだからさ?俺と付き合ってくれないなら今すぐこの場で返してよ。」



龍聖はニッコリと微笑みながら、返せ返せ!と言わんばかりに手のひらを上に向けた状態で手をヒラヒラと上下に振る。



「ひ、卑怯者!それとこれとは話が別でしょ?!」

理不尽な言い分に思わず声を荒げると

「別じゃないよ、一緒だよ。あの本は美月とまた会うきっかけが欲しくて貸したものだし、今だって美月が欲しいから利用してる。」

そう言って悪びれもなく龍聖はニッコリ微笑む。



こ、こいつ…
本当の悪魔だ!!



玲子先生のことを考えるとアレを今すぐ返すことなんて絶対に出来ない。今から連絡するなんて、とっても失礼なことだし何よりも執筆に必要な資料を横から奪うことなんて私には絶対に出来ない。(しかも理由も理由だから言えないし!)


それがわかってて龍聖はこんな意地悪を言っている。私があの本を返すことなんて絶対に出来ない、ってわかっているくせにこんな無理難題を投げつけてきてる。


ホンット…性格わるい!!


< 105 / 223 >

この作品をシェア

pagetop