あなたと月を見られたら。
「イヤだ、って言ったら?」
試すように彼に問いかけると
「強がり言うね。
お役目第一で、まじめで優しい美月チャンが断れるはずないクセに。」
見透かしたように彼が笑う。
「玲子先生、怒るだろうね。こんな急にあの本を返してくれ、なんて言ったら。」
「う、うう…!」
「かわいい編集者から空気を読まない編集者に格下げだろうなー。残念だね、美月。」
編集者の仕事は作家の先生に最高の作品を作り出してもらうこと。そのためには環境を整えて、できる限りサポートして、作品に集中してほしいって私はいつも考えてる。だから…本を玲子先生から取り返すことは、自分の身は守れても自分のポリシーには反することになってしまう。
どうしよう…。
自分か、作品か。足りない頭を必死に回して、必死に考えをまとめていると
「頑張るねー、美月。まぁ、玲子先生との間に亀裂を入れてでもあの本を返してくれるなら、それはそれでいいんじゃない?でも…どう考えても俺と付き合った方がリスクは少ないと思うけど?」
悪魔は感心したようにニッコリ微笑む。
そしてゆっくり立ち上がり、ゆっくり歩き、私の背中に体を添わせるようにピタリと体を密着させると、私の左手の指に自分の左手の指を絡める。びっくりして思わず身をよじると
「そういうの逆効果って知ってた?美月。」
彼は空いた右手で私の体をギュっと抱きしめる。