あなたと月を見られたら。
「あのさ、言ってもいい?」
「なんですか??」
「やっぱり……牧村さんって頭の中に妖精さんが住んでるよね。」
龍聖と付き合うことになった次の日。ランチタイムにいつものカフェで懇切丁寧に経緯を説明した後、麻生さんは呆れたようにこう言った。
「どういうことですか?!」
頭の中に妖精さんって失礼な!!
プンプン怒りながら彼を問い正すと
「いやいや、兄上様が本懐を遂げたことは大変喜ばしいことだから水は差したくないけどさ??関係なくない?本。」
「…はい?」
「いやさ?どう考えても龍聖と牧村さんが付き合うことと貸した本を返す返さないってことは別次元の問題でしょ。それを真剣に悩むって…バカじゃない?」
「え、ええーーっ?!」
そうなの?!
え?!世間の定義としてはそうなの?!
だ、だって龍聖は『同じだよ』って言ってたし、引かなかったし、あの場のあの時点では私にとっての大問題だったのに!!
サーッと顔を青ざめさせながら一人で勝手にショックを受けていると
「ってかその場で龍聖を振り切って、帰っちゃえば逃げられたじゃん。」
「ええ?!」
どういうこと?!
だってそんなことしたら本を返さなきゃいけなくなるんだよ?!
麻生さんの言っている意味がわからなくって完全にパニックに陥っていると、
「あのさ?冷静に考えてみなよ。どうせ龍聖は玲子先生の連絡先なんて知らないんだから、そのまま借りパクしちゃえばよかったんじゃないの??」
「ええ?!」
「だって牧村さんが玲子先生に連絡を取らない限りは龍聖は直接コンタクトは取れないワケじゃん。それならブッチ切ろうと思えばいくらだってブッチ切れたハズだし、本の貸し借りなんて基本この問題とは別問題なんだから、無視してればよかったのに……バカだよね。」
麻生さんはこんな元も子もないことを言い始める始末。