あなたと月を見られたら。
バカだとわかっているくせに、胃袋を龍聖にガッチリ掴まれてアッと言う間に懐柔されてしまっている、私。
こんな姿を麻生さんが見たらまた「頭の中の妖精さんはのんきだね」とか言って呆れるんだろうな…とか思いつつ、龍聖お手製のガーリックシュリンプを小さなリビングのテーブルで頬張っていると
「美月はホントに美味しそうに食べるねぇ。」
目の前で白ワインのコルクを開けながら満足そうに龍聖が微笑む。
「だって、すっごく美味しいんだもん!」
殻付きのエビさんはプリプリで美味しいし、ガーリックの風味もバッチリ効いてて塩加減も丁度いい。エビに振りかけられた刻みパセリは彩りも美しく、まさに完璧。
ワインの栓を開けたあと、キッチンの奥に引っ込んでワイングラスを探す龍聖に向かってそんな言葉を投げかけると
「昔はしかめっ面してホテルディナー食べてたくせに。」
龍聖はクスクス笑いながらこちらを見る。
お気に入りのバカラのグラスを持ってゆっくりと歩いてくる龍聖。慣れた手つきで白ワインを注ぐ龍聖を見ながら
「だって、あんな格式張ったところ…美味しくても緊張して味なんてわかんなかったよ。」
そんな言葉を口にすると龍聖は
「そう??」
柔らかに微笑んだ。
「結構お気に入りだったんだけどなー。あのホテルのフレンチ。」
淹れ終わった白ワインのボトルの口をノリのしっかり効いたナプキンでキュッと拭いて、氷のたっぷり入ったワインクーラーにボトルを突っ込むと、龍聖はニコニコ笑いながら私の前に腰掛ける。
「美月はフレンチが嫌いだったの?」
そんな彼の質問に私がプルプルと首を横に振って
「ううん、なんか苦手なだけなの。ああいう空間が。」
「苦手??」
「うん。私ね?基本的にはお家のご飯の方が好きだから、慣れてなくって。」
そう言うと龍聖は「美月らしいね。」と嬉しそうに微笑んだ。