あなたと月を見られたら。
◆ ◆
《ごめん。今日は急用が出来て会えなくなった。また連絡するね。》
龍聖がお休みの木曜日、お昼休みの時間に龍聖からこんなメールが届いた。
私の仕事が終わった後、龍聖のお家に集合してご飯を食べる予定だったんだけど…仕方ないかな。急用ならしょうがないよね。あーぁ、残念。
って!
残念ってなによ!残念って!!べ、別に龍聖と会えないことなんて寂しくもなければ普通のことで…むしろせいせいしてるくらいなんだからっ!
そんな風に自分に言い聞かせて、自分のデスクを整理していると仕事用の携帯が着信を告げるようになり始める。
慌てて携帯を手に取ると、そこに出てきた名前は白石玲子。私の担当させてもらってる作家さん、玲子先生だった。
「もしもし、牧村です。」
急いで電話を取ると
「あ、美月ちゃん?
次回作の原稿なんだけど、冒頭部分が書けたから一度見てもらえないかしら。」
玲子先生からはこんなありがたいお話を伺えた。
玲子先生の新作は恋愛モノ。拗らせ女子とイケメン男子の話、って設定で話を進めてたけど…どんなお話になったんだろう。すごく楽しみ!!
「もちろんです!
いつお伺いすればいいですか?!」
興奮しながらたずねると
「そうね。今日の6時頃丸の内のイルクォーレホテルのカフェラウンジに来てくれない??」
いつものように品のある声で、玲子先生は涼やかにつぶやいた。
イルクォーレホテル
そのホテルは2度と聞きたくなければ、2度と使いたくない、もっと言えば足も踏み入れたくない、ホテルだった。
なんでかって?理由は簡単。
二年前に龍聖がいつも常宿で使っていたホテルだからだ。
二年前、付き合っていた時にデートのディナーに使っていたのはイルクォーレ最上階のフレンチ。泊まるのはイルクォーレの客室。
ついでに言えば龍聖と初めてエッチしたのも別れたのもイルクォーレなんだよねぇ……。