あなたと月を見られたら。
「でも、まぁ…久々に楽しかったですよ。呼んでくれてありがとうございます、スティーブ。」
そのスーツ、何??
なんでここにいるの??
頭の中は混乱するばかり。
伸びすぎた髪を後ろで一つにまとめて、私の大っ嫌いなゴルチェ&ガッバーナのスーツに身を包んだ龍聖。デキル男の顔して自信満々に笑う目の前にいるあの人は、私が大嫌いだった2年前の龍聖そのものだった。
『真剣な恋なんてめんどくさい』
『束縛されるのも大嫌い』
『結婚なんて人生の墓場だろ』
『愛してる、なんて気持ち悪い』
手に持っていたはずのメニューがポトリとテーブルの上に落ちて、手先がブルブルと震えだす。
2年前と同じ格好。
2年前と同じ場所。
全てが重なり、不安が私の心を支配する。塗り替えたはずのイメージがガラガラと全て剥がれ落ちていく音がする。忘れていたはずの記憶が鮮明に思い出されて…胸の奥がギュゥッと痛んだ。
ねぇ、龍聖。
なんでそんな格好してココにいるの?急用って何だったの??
ズキズキ痛む胸の痛みに耐えながら視線の先にいる龍聖を見つめていた時、龍聖の周りにいる人の正体に気づいてしまった。
スティーブって言われてたあの恰幅のいい白髪のオジさん……龍聖の元上司だ。間違いない。お友達、ジョシュの居酒屋で初めて龍聖と会った時…私の隣でお酒飲んでた人だもの。少しお年は召されたけれど…間違いない。あの人は龍聖の元上司だ。
元上司とホテルで会食??
なんで?どうして??
一人なら意味がわかるけれど、どうして三人もいるの??
わかんない…!
わかんない…!!!
痛む胸を押さえながら、混乱する頭で龍聖たちを見つめていると
「お待たせ、龍聖。」
髪をアップにして、高級そうなベルベットの黒いワンピースに身を包んだ美女がツカツカと高いヒールを鳴らしながら歩いてきて、龍聖の左腕にサラリと腕を絡ませた。