あなたと月を見られたら。
「う、うぅ…っ。」
もっと早く素直になってたら、こんなことにはならなかったのかな。あの女の人と早く手を切ってくれてたのかな。
もっと素直に気持ちを伝えてたら…龍聖はスーツなんて着ないで、私の大好きなカフェのオーナーでだけいてくれたのかな。
いろんな後悔が自分の胸に押し寄せて、自分を苛んで、私の心を蝕んでいく。その不安はどこか2年前のあの頃とよく似ていて、その事実が更に私を奈落の底へと誘い込む。
龍聖のことをどんなに好きになっても、彼は決してそれを返してくれる人ではないのだ、と。最後の最後に龍聖は私を裏切るんじゃないか。
そんな気持ちが心の中で生まれて、グチャグチャに混ざり合って、ドロドロになって…気持ち悪くて吐きそうになる。
だけど…だけどね??
ーーダメ…ダメだ。
結局コレって思い込みじゃない。
イヤな言葉もイヤな事実も龍聖からじゃなく、勝手な第三者が言ってるのを聞いただけで、本人の口から何かを聞いたわけじゃない。
本人に言われたわけじゃないのに…こんな風に後悔することもショックを受けることもお門違いだ。
そう自分に言い聞かせて「大丈夫、大丈夫」と暗示をかける。
浅くしかできなかった息を肺の奥までしっかり空気を吸い込んで、深呼吸。何度かそれを繰り返すうちに乱れていた息が少しずつ落ち着いて、トゲトゲしていた気持ちが少しずつ丸くなる。
ーーハァ…。
ちょっと落ち着いてきたかも…。
少し浮上出来た自分を見つけてヨロヨロと一歩足を踏み出すとカバンの中でメールを受信した着信音がピリリと鳴る。
慌てて携帯を手に取るとそこに現れた名前は“佐伯龍聖”。今一番、見たくもない名前の男の人だった。