あなたと月を見られたら。
お母さんのせいで『愛してる』という言葉を心の底から憎んでいる、龍聖。死んでも言いたくない、と言ったその言葉。
こんなこと送っても龍聖が普通に返してくれないことくらい……わかってる。でもそれでも言ってくれたら。形式だけでも言葉だけでも、それに込められた意味なんてなんでもいい。
龍聖が死んでも言いたくない、と言ったその言葉をそれでも言ってくれたなら…私にだけ伝えようとしてくれたなら……それだけで彼を信じられる。そう思った。
その言葉さえ伝えてくれれば、人がなんと言おうと、誰が何と言おうと、目の前の龍聖を信じられる。ずるい私は、そう思った。
だけど…いつまで待っても返事は返ってこない。路地に入ったまんま立ち止まって、携帯とにらめっこする私。
ーーこれは…無視かな。
私のメールを見て、固まったまま困り果ててる龍聖の姿が目に浮かぶ。
ハァ、とため息を吐いて家路につこうと一歩足を進めると携帯がピリリと着信を告げる音を鳴らし始める。そこに出た名前は佐伯龍聖。
「はい。」
重い気持ちのまま電話に出ると
「何?アレ。」
私の耳には静かに怒る龍聖の声が聞こえてきた。
「何…って…??」
試すようにそう尋ねると
「今さら誤魔化すなよ。」
龍聖はイライラした声でピシャリと言い切る。
「あのさぁ。美月は俺があの言葉を死ぬほど嫌ってる、ってわかってるよね?分かってるなら…なんであんなこと聞くワケ?」
その声、その言葉に愕然とする。
あの頃と同じ冷たい声で、あの時と同じ問い詰めるような口調で責められると、やっぱりこの人の本質はコレなのかなって疑ってしまう。
それに…彼を試すようなことをして、その挙句に欲しい答えがもらえなくてガッカリしてる、そんなバカな自分に嫌気がさす。