あなたと月を見られたら。


「ゴメン…」

「……。」


龍聖は無言のままハァと大きくため息をついた。




ーー何を私は期待してたんだろう。


試すようなことをして、挙げ句の果てに怒らせて、勝手に不安になって、勝手に悲しんで。


バカみたい。
バカすぎて泣けてくる。


こんな自分になりたかったワケじゃない。こんな卑屈な自分に出会いたかったワケじゃない。


だけど、彼と一緒にいると…きっと、ずっと、これが繰り返される。こんな風に勝手に疑って、龍聖を試して、卑屈になって、ちょっとしたことで不安になって彼を怒らせて困らせる。



龍聖のことは好き。
それはもう疑いようのない事実。



でも…こんなお付き合いって本当に幸せなのかな。龍聖のこと好きだけど…好きだからこそ苦しい。


答えをくれない龍聖がもどかしい。言葉をくれない龍聖がもどかしい。


ズルくて弱い私は『好き』って気持ちだけで乗り越えられるほど子どもでもなくて、いろんなことを割り切って付き合っていけるほどオトナでもない。


多分…ね?
龍聖と真剣に付き合おうと思ったら見て見ぬ振りして、うまくホンネとタテマエを使い分けなきゃいけないんだと思う。


だけど、ホンネとタテマエなんて使いわけたくない。そんなに器用なオトナになんてなりたくない。いつもありのままの自分でいたい。それを認めて愛してくれるパートナーであって欲しい。


でも……それは龍聖には無理なのかもしれない。


育ってきた環境が違う。
考え方が違う。


どんなに好きでも、どんなに望んでも私と龍聖の間には埋められない溝みたいなものがあって…それを見つけるたびに、埋めようとするたびに、こんな風にぶつかってしまうんだろう。


その度に傷ついて、また自分勝手に自分も龍聖も追い込むのなら…もうここで手を引いた方がいいのかもしれない。


全てなかったことにして、ゼロに戻して、何もなかったように過ごせば…私はきっと傷つかない。


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