あなたと月を見られたら。
「ゴメン、変なこと聞いてゴメンね、龍聖。じゃあ…サヨナラ。」
「…美月…?!」
龍聖は電話口の向こうで何かを言っていたけれど…気づいてないふりをして私は通話終了のボタンを押した後、携帯の電源をすぐに落とした。
自分勝手なのはわかってる。
この行動が短絡的なことも。
バカなことしてる、ってちゃんと自分で分かってる。
でも…それでも傷つきたくない私はこの恋に自分で幕を引こうと決めた。
やっぱり…無理だ。
龍聖のこと100パーセント信頼できないクセにそれに気づかないフリして、何も知らないフリして付き合っていくことなんてできない。
今は良くてもいつかまた、同じようなことが起こって傷つくことになるのなら…まだ好きの気持ちが少ないうちに手を打つべきだよ。
私は優しい人と恋をしたい。愛し愛され、普通のありきたりな毎日に幸せを感じる、そんな付き合いが私の望み。
龍聖とならそれができるかも…。そう思ったけど甘かった。きっと龍聖とは…傷つけあうだけで終わっちゃう。二年前のあの時のように。
それならもうやめちゃうべきだよ。
龍聖に恋してる自分も、この傷跡も全部フタをして全部全部なかったことにして、、、ゼロに戻そう。
甘い胸のうずきも、あの時感じた快感も全て忘れて、龍聖と再会する前の自分に戻るんだ。
そうしたら…
いつかきっと忘れられる。
2年前のあの頃のようにしばらくは胸の痛みが襲ってくるだろうけど…過ぎ去ってしまえば『若い頃の過ち』として、いい思い出にできるはず。
そう。きっとそれがいい。
傷ついて、我慢して、見て見ぬ振りして付き合うくらいなら…忘れた方がきっといい。
私は携帯の電源を落としたまま、そのまま家路に着いた。家に帰ってからも電源を落としたままご飯を食べて、お風呂に入って、そのまま就寝した。
翌日電源をつけると龍聖から沢山の留守電が入っていたけれど…そのどれも聞かないまま消去して、彼の番号を着信拒否した。
バカなことしてる。
きっとこんなこと麻生さんは怒るだろうし、龍聖だって許してくれない。でも、それでいいと思った。
好きになってウソつかれて、フラれて泣くことになるんだったら、今忘れた方がずっといい。
小さなウソは大きなウソにすり替わる。
その日を怯えながら待つことなんて…私には絶対にできなさそうだったから。