あなたと月を見られたら。
イルクォーレホテル事件があって龍聖を無視してから、5日が過ぎた。最初は会社に待ち伏せされるかな…とか、公衆電話とか使って電話かけてくるかな…とか色々警戒してたけど、その心配は全て杞憂になった。
会社に待ち伏せなんてされやしない。自宅に突撃訪問もなければ、電話もない。
サヨナラを決めてみたら意外とそれは簡単なことで、校了前の忙しい時期も重なって、私は龍聖のことに心を痛めるでも思い悩むでもなく、必死に目の前の仕事に向かうのみだった。
仕事をしてれば、忙しい内は龍聖のことを忘れられる。
龍聖だって……きっとあのオンナの人と仲良くしてるんだよ。毛色の違うオモチャにはもう飽きて、帰るべきところに帰って行ったんだ。
そう思い直して必死に仕事をしていた、ある日のお昼休み
「ねぇ。ちょっと顔貸してよ。」
ギロリと睨みをきかせた麻生さんに無理やり捕獲されて、私は社外のカフェに連行された。
店員さんにソファー席に案内されて、私は何にも言ってないのに
「クラブハウスサンドとチーズハンバーグプレート。あとアイスコーヒーにカフェラテ、ホット。」
勝手に注文して、店員さんがいなくなった途端
「オイ、コラ。そこのクソオンナ。」
「は、はい?!」
「オマエ、俺に言うことあるだろ?
俺がまだ笑ってられる内に懺悔しろや、コラ。」
コメカミにアオスジたてたまんま、麻生さんは悪魔顔負けの笑顔を浮かべて私を厳しく尋問し始めた。