あなたと月を見られたら。

サイフの中から1000円札2枚をとって、麻生さんのテーブルの上にダンと置いて立ち上がると

「ふーーん、逃げるんだ。」

バカにしたように、麻生さんはクスリと鼻を鳴らす。その顔が異常にムカついて眉をしかめると


「都合が悪くなったら逆ギレして逃げるんだ。」

「なにが言いたいんですか?」

「別に?そういうズルい生き方に慣れてるんだな、と思っただけ。」


昔の龍聖みたいな冷たい目をして麻生さんは私をまっすぐに見据える。



「いいよね、牧村さんは。そうやって都合悪くなったら逃げ出せばいいんだからさ?」



は??
何言ってんの?この人。



「どういう意味ですか?」



キレ気味に尋ねると

「だってさ??辛いことも嫌なことも全部人のせいにして『私は悪くない!』って最後まで言い切れる精神って素晴らしいよ。呆れるを越して尊敬するわ。」

麻生さんはアハハと愉快そうに笑いながら、私を見つめる。




辛いことも、嫌なことも全部人のせい




その言葉にカチンときた私が反論しようとすると

「あー、いいよ。言い訳と負け犬の遠吠えは聞いてて気持ちのいいものじゃないからさ。帰りたいならサッサと尻尾巻いて帰んなよ。」

ニッコリ笑って麻生さんはバイバイと右手を振る。


なに…この人…!!


ひどい言葉の応酬に、ひどい態度の応酬。いつも麻生さんはドSだけれど、ここまでひどいときは一度もなかった。からかうように、バカにするように笑ったりすることはあっても、こんな悪意をぶつけたりすることは一度もなかった。


だからこそ混乱した。
このまま水をぶっかけてやりたい衝動はあるけれど、目の前にいる麻生さんと私の知っている麻生さんがあまりにも違うから混乱したんだ。


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