あなたと月を見られたら。
それに負けずに
「だってクラブハウスサンド、食べたいですもん。」
そう言い返して、目の前のサンドイッチにかぶりつくと
「図太いオンナ。」
麻生さんは呆れたようにクスクス笑う。
言葉も交わさず黙々とお互い食べ続けて、時折ドリンクを飲んで、お互いに物思いに耽っている私たち。
麻生さんにありがとうを言うタイミングも謝るタイミングも言い訳するタイミングも…探しているけどなかなか見つからない。
ーーどうしよう…
困ってしまって、一点を見つめたまんまサンドイッチを食べていると
「あ、そうだ。コレ渡して、って言われてたんだった。」
そう言って、麻生さんは一枚の便箋を私に差し出す。白地に薄い青で線が書かれた何の変哲もない、その便箋。
渡された便箋をゆっくりと開くと
『今夜は月が綺麗ですね。』
それだけが書かれてあった。
「コレ……」
意味がわからず尋ねると
「龍聖から。俺もよくわかんないんだけど『それがこの間の答え』って言ってた。」
そう言って、麻生さんは少しぬるくなったカフェオレをグッと喉に流し込む。
このあいだの答え??
んん??
このあいだっていつのこと??
あの最後の電話のことかな?
でもあの日は月なんて出てなかったし……そんなお月見情報なんて私は一言だってたずねてもないし、、、、??ううん??意味がよくわからない。
頭の中にクエスチョンマークを浮かべながら
「とりあえず、いただきます…」
その便箋を小さくたたみ直すと
「うん、そうして?」
麻生さんはそう言って天使の笑みを浮かべながらニッコリと微笑んだ。
うん……
とりあえず、今日の仕事が終わったら龍聖のお店に行ってみよう。怒られるかもしれない。それこそ無視し返されるかもしれないけど…ちゃんと話して正面からぶつかってみよう。
麻生さんに怒られて、なんだかスッキリした私。龍聖の謎の手紙をカバンの中にしまって、私はそう決意していた。