あなたと月を見られたら。
さっきまでの険悪なムードは何処へやら。クスクス笑い合う私たちを見て、道行く人は不思議そうにチラチラとこちらを見ていく。
あーぁ。
私ね?馬鹿なのかもしれないけど、あんなひどいこと言われたけど、、、麻生さんのこと嫌いじゃないんだ。
普段は超がつくほどイジワルなクセに、こんな風に不用意に優しさを見せちゃうところは可愛いな、と素直に思う。それにね?良くも悪くも自分に正直な麻生さんは羨ましい。
いつも悩んでばっかりで、逃げてばっかりの私は、何度となく彼に目を覚まさせてもらってる気がする。少し言葉はきついところもあるけれど、麻生さんは私にいつも大事なことを教えてくれる、人生の先生みたいな存在…なのかも。(口が悪すぎるのが玉にキズだけどね。)
クスクス呆れたように笑う麻生さんに
「じゃ、私行きますね!
いろいろとありがとうございました。」
ぺこりとお辞儀をして踵を返すと
「はいはい、どうぞ、ご勝手に。」
彼はまたまた、こんな可愛くない返事をしてくる。
「あのねぇ、そんな態度じゃモテませんよ?!」
勢い余って苦言を呈すと
「あぁ…その点は大丈夫。俺、アンタ以外のオンナに素を見せる気はさらさらないから。」
麻生さんはまた、こんなわけのわからないことを言い始める。
「…へっ?」
意味がわかんなくて首をひねると
「わかんない??俺は女の理想の『優しくて天使みたいな笑顔の麻生さん』を演じるのは得意中の大得意。心配されなくても俺、そこらへんのボロは出さないから大丈夫。」
悪魔はそう言って危険な顔してフフンと微笑む。
ーーえ、ええ?!
最悪!この人、最悪!
この世に生まれ落ちた人間悪魔、佐伯龍聖の片割れはやっぱりやっぱり人間悪魔。いたいけな子羊ちゃんを騙すことに抵抗も罪悪感もないらしい。
「もうっ!そういうのはモテるって言わずに騙してるっていうんです!」
「はぁ??そんなのどっちだっていいよ。最終的に股開いてヤラせてくれれば。」
「な、な、な、な、なんてこと言ってくれちゃってるんですか!あのねぇ!そんな不誠実なことばっかりしてると、いつか本気で好きになった人に振り向いてもらえなくなりますよ?!」
バカなことを言う麻生さんを鼻息荒くお説教してメッ!とキツく睨んだ後、ふと時計を見たら結構な時間が過ぎていた。
ヤバイ…!
百貨店に寄った後、玲子先生のお家に行こうと思うとこれ以上時間はロスできないかも。
焦った私が
「じゃ、、、そろそろ私行きますね!」
更に言いたい気持ちをグッとこらえて彼に後ろ手でバイバイをしながらその場を駆け足で立ち去ると、麻生さんも嫌そうに私に手を振り返す。その姿に妙に安心してしまって、さらに加速して足を進める、私。
そんな私の姿が見えなくなった後
「ホント余計なお世話だよ。本当の俺の気持ちなんて、知りもしなければ興味すらないクセに……さ?」
振っていた手を下ろしながら小さな声で忌々しそうに、彼はそう呟いた。