あなたと月を見られたら。
冒頭の1ページを開いたまんま、身動き1つ、まばたき1つできなくて、原稿を持ったまま固まってしまった私。
龍聖から送られていた言葉。
「わけわかんない。」の一言で聞き流していた、その言葉。その言葉の裏に隠されていたのは、とても柔らかな気持ち。
その言葉の意味を一つ一つ紐解くたびに自分がどんなに大切にされていたのか……どんなに愛されていたのかを思い知る。
不器用でわかりにくい龍聖のI love you.
彼の隠れたサインを思い出すたびに気づかなかった自分が情けなくて、切なくて、、、でもとても嬉しくて、瞳の奥から熱いものがポロポロと頬にこぼれる。
そんな私を見てクスッと笑うと
「実はね?この主人公のモデルはマスターなのよ。」
こんな爆弾を玲子先生は放ち始める。
「え、ええ?!」
その言葉に驚いて次のページをめくると、そこに広がっていたのは男性目線の恋物語だった。
主人公は元エリートだった男性。
別れた彼女を思い続けて、彼女が好きだと言ったコーヒーを作り続けて、いつか彼女が自分にもう一度振り向いてくれる日を夢見る、切なく、温かなお話だった。
「…え…?!」
なんで??
どうして???
頭の中に浮かんだいろんな疑問を確かめたくて玲子先生の方を見ると
「美月ちゃんをあのお店に連れて行く少し前かしら。マスターにたずねたの。お店の名前、意味深ね?って。」
名前??
龍聖のお店の名前はLa belle lune (ラ ベル リュヌ )。店の名前なんて気にしたこともなかったけれど…。
首をひねりながら玲子先生の方を見つめると
「La belle lune (ラ ベル リュヌ )。意味は知ってる?」
玲子先生は柔らかな笑顔とともに、こんな質問を私に投げかけてくる。素直にフルフルと首を横に振ると玲子先生はクスリと笑って
「La belle lune (ラ ベル リュヌ )。
フランス語で“美しい月”を意味するの。」
そんな言葉を私にプレゼントしてくれた。