あなたと月を見られたら。
カバンの中には玲子先生から頂いた原稿と、小さく折りたたまれた龍聖からのラブレター。ヒールのまんま自由が丘の高級住宅地を疾走する私を有閑マダム達は驚いた瞳で見つめるけれど、そんなの気にはしてられない。
『俺はきっと『愛してる』って言葉は口に出しては使わないだろうね。だけどね?その代わりになる言葉なら世の中にはいっぱい溢れてると思うんだよ。』
龍聖とお試しで付き合うことになったあの夜。にっこり笑ってそう言った、彼の言葉が頭の中で何度も何度もリフレインする。
ーーこのこと…だったんだ。
バカな私は中々彼の真意にたどり着かなくて、疑ってばかりで、疑心暗鬼になるばかりで、1ミリだって彼のこと信じてなかった。
怖がる前に飛び込んでみよう!だなんて威勢のいいコト言って、いいオンナぶっていたけれど…結局のところは口ばっかりで、私は龍聖から逃げてばかりいたんだ。
「あー!私のバカ!!」
見えるものばかり追いかけて、言葉ばかりを欲しがって、結局大事なコトは何一つ見えてなかった。
龍聖がわからなかったんじゃない。
龍聖が悪いワケじゃない。
私が…彼を正面から受け止める勇気を持てなかったのが悪いんだ。彼を信じる勇気を持てなかった自分に責任がある。目に見えない、だけど確かにそこにある柔らかで温かい、彼の本心を見抜けなかった私が全部全部悪いんだ。
今更ながら自分の馬鹿さ加減に気づいた私。こうやって走って行った所で、龍聖が無条件に私の話を聞いてくれるとは思えない。
勝手に着信拒否して、勝手に関係を切った私のことを簡単に許してくれるはずなんて、ない。きっといっぱいイヤミを聞くハメになるだろうし、冷静に話し合いなんて出来やしない。
よくある、少女漫画みたいに『あのお店の扉を開けたら龍聖が抱きしめてくれて、何もせずとも2人は幸せなハッピーエンド❤︎』だなんて、私たちの間には死んでもありえないだろう展開だけれど、、、ここで逃げてちゃオンナがすたる。
どうなったとしても話さなきゃ。
ケンカしてでも言い合いになったとしても、今度こそ彼の心のすべてが知りたい。私も私の本心を龍聖にぶつけたい。
だって……
私たち、お互いのコト知らなさすぎる。