あなたと月を見られたら。
黒のタイトなワンピースにゴールドのロングネックレス。マノロブラニクのエナメルのパンプスにオードリー・ヘプバーンみたいな清楚な夜会巻き。
そして彼女が傍に置いているバックは忘れもしない、バーキンのゴールド。
間違いない。
この人はイルクォーレホテルで会った、あの美女だ…。
大人な女性の香りがムンムンする彼女をを見て私の体が硬直する。でも、私の体をさらに硬直させたのは…
「失礼いたしました。いらっしゃいませ、お客様。お好きなお席にお座りください。」
さっきまでの驚き顔は何処へやら。サッと表情を反転させて、私の大っ嫌いなあの作り笑顔を浮かべてサラッと知らん顔して席を案内する、龍聖の姿だった。
ーーな、なに、この人。
さっきまで動揺してたくせに!!
意味がわからずその場でカチンコチンに硬直してると
「なぁに?龍聖、あの子知り合い??」
甘えた声で美女が尋ねる。
そこはビシッと「俺の期間限定のカノジョ」と答えるでしょう!!
そんな私の淡い期待は
「いいえ。よく来てくれる常連さんですよ。」
え、ええ??!!
「あら、そうなの。」
ええーーー!!
目の前であっけなく破られる。
む、むかつく……
店の名前も私の名前のくせに…。あんな思わせぶりな愛の告白をしちゃってたくせに…この仕打ち、ひどすぎない?!
着信拒否にメール拒否。どちらかと言えば私の方がひどい態度を取っていたクセに、目の前で繰り広げられる無視にはむやみやたらとイラつく私。
性格の悪いことは十分わかっているけれど。私はキイッと龍聖を睨んだ後
「私!ここに座ります!!」
そう息巻いて、美女の近くのカウンター席にドンッと腰掛けた。